あなたは会社の美意識を理解しているか– 採用×People Analytics -

marumaru
32 min readDec 2, 2018

こんにちは。marumaruです。最近

さんとチルしてたら、すっごいラフな感じで #ベンチャー採用Advent Calender2018 にお誘いいただきました。

先日のLINE青田さんに続き、未熟ではありますが二番手勤めます。

ベンチャー企業勤務でも採用担当でもないですが、せっかくの機会なのでPeople Analyticsなるものを勉強する中で学んだことをシェアさせてください。 あくまで個人の意見です。

■筆者について

私は「”はたらく”ってめっちゃ楽しいじゃん!最高にわくわくしながら”はたらく”が体験ができる組織を作りたい!」という一心で、現在は人事データの分析用データベースの環境構築やTableauを使ったダッシュボード作り、それらの活用のためSQL/BIの研修を提供しています。もちろん自分自身で簡易分析もしますが、どちらかというとエビデンスを知る・使う・教え合う人を増やす文化作りに重きを置いています。

ちなみに特技は室内で過ごすこと、趣味は犬と戯れることです。

まあ要するに、スーパー採用担当でも、コーポレート分析のエキスパートでも、経営学の研究者でも、筋肉もりもりでもありません。

ただ組織内に存在するデータについて調べたり、考えたり、いじったり…とにかく没頭し続け、気がついたらどっぷりこの分野の虜になっていました。

■この記事について

今回のテーマは採用× People Analyticsです。

一言で言うと、

・採用の起点は企業の美意識である
・意図のない手法は意味がない

という意見を、色々なフレームを使いながら説明する記事です。

ただ、それだけ言っても伝わらないと思うので、理想を語る前に現実がどうなっているか考えます。

例えば、採用の分析と聞くとこんな質問を思い浮かべませんか?

「うちで活躍する人って、どんな特徴があるか選考データで分析してくれない?」
「今年度に入社した新卒って今までの新卒よりも優秀なの?」
「どの面接官が将来活躍する人を見抜けているか見てもらってもいい?」
「最近新卒が早期退職しちゃうから、退職しない人材を採用するにはどうしたらいいの?」

などなど。今まで言われた一番びっくりな言葉は、

「自分はリクルーターとして候補者を魅了したはずなのに、なんで辞退するかわからない。なぜか理由を知りたい。」

はい…

以上の質問をいきなり投げかけられると、とっても切なくなります。これだけでは、正直何を解けばいいのかよくわかりません。

1つ目の質問を取り上げて見ましょう。

これは活躍の定義が、会社・職種・タイプによっても違います。直後なのか、3年後なのか、10年後なのか。まずそこは決まっているのでしょうか。

また、日本の新卒採用のようなポテンシャルでの採用をThurow(1975)は、仕事競争モデル(job competition model)としています。このモデルの場合、採用後の職場訓練 (OJT)によって育成をする前提があるため、

最初に問うべきは、
「その会社が持つ環境において、育ちやすい人の特徴はあるのか?」
「その会社に入社する人を育てやすい研修やOJT方法は何か?」

または、その組み合わせを考えることかもしれません。

切なくなる理由は、これだけではありません。

People Analyticsしたい!と思ったとき、たとえこれらの問いを磨いたとしても、その問いに必要なデータは揃っているのでしょうか。

そもそもデータとして存在しない場合もあれば、存在しても整える工数がかかり過ぎる場合もあり…スピード感が求められる現場では最終的に感覚で答えざるを得ない状況に追い込まれるのではないでしょうか。

まだ顕在化していなくとも、いずれは事業拡大に伴って組織も拡大していく予定。そうなれば、採用でデータを使うことは当たり前になります。

さて、そんな未来に向けて、今から一体何をすればいいのでしょうか?

前置きが長くなりましたが…

この記事では、採用にPeople Analyticsを導入したい!と思う方に向けて、その方法や考える順番などについて以下の2部構成でお伝えしたいと思います。

<1>採用×People Analyticsで最初に何を考えるべきか
<2>採用×People Analyticsが活きる4つの領域

できるだけ世の中の知見を盛り込みますが、あくまで主観です。「へえええ、そういう風に考える輩もいるのか」くらいに思ってください。

そして、渾身の力を込めて書いたので、ビビるくらい長いですw
採用活動やPeople Analyticsに本気の方だけお付き合いください。

<1>採用×People Analyticsで最初に何を考えるべきか

■採用とは

そもそも採用活動とは、一体なんなのでしょうか。

日本の採用に近いとされているWanous, J. P. (1992)のエントリーモデルは、募集→選抜→適応→社会化というプロセスに分けられています。

また採用のみにとどまらず、別のエントリにも記載していますが、人材フローの一部、つまり”Staffing”の一部とも言えます。

↓WHARTON ONLINE People Analytics Staffing Analyticsより

■The Staffing Cycleの構成要素
・Hiring: 採用
・Internal Mobility and Career Development: 社内異動とキャリア開発
・Attrition: 退職

また、”戦略的採用”という分野のフレームワークも考えられます。

細かいですが、”戦略的採用”というフレームの前提として、経営資源に基づく企業観・内部資源論(Resources-Based View)があります。

なかでもRBVが注目を浴びたきっかけと言われているのが、Berney(1991)のVRIOフレームワークがあります。VRIOとは、内部資源つまり企業のケイパビリティを、経済価値(Value)・希少性(Rarity)・模倣困難性(In-imitability)・組織(Organization)という4つの切り口でみるフレームワークです。
あくまで個人的な見解ですが、外部環境・資源の重要性も理解しつつ、このVUCAの時代では改めてRBVを意識してもいいのかなと思います。

話は逸れましたが、以上の前提をもって戦略的人的資源管理論(通称 SHRM: Strategic Human Resources Management)、そして戦略的採用が発展しました。

たとえば以下のモデルは、採用が組織の競争優位へ影響を与えるメカニズムを示したものです。
*KSAOs: Knowledge, Skill, Abilities and Other characteristicsの略

Source: Ployhart and Kin (2013) P.11 Fig.2.1 The model of strategic recruitment

特に、スタートアップは個人のKSAOsによるパフォーマンスへの影響が大きく、その要素が良くも悪くも競争優位を導きそうですよね。

また、「採用とは何をすることか」に答えるフレームとして、Deloitteが毎年出しているHR Technology Disruptionsでは、以下のように捉えられています。

HR Technology Disruptions for 2018

様々な枠組みについて言及しましたが、皆さんが思う”採用”とはどのようなものでしょうか?

■採用の目的とは

では、仮に採用をWanous, J. P. (1992)の「募集→選抜→適応→社会化」とした時、採用の目的はどうなるのでしょうか?ここで、採用活動の目的を服部 泰宏先生の『採用学』(2016)より引用し、以下に定義します。

  1. 企業が設定した目標と戦略を実現するために、ある時点で不足している、あるいは将来の時点で不足すると予想される人材を獲得するため
  2. 職場や組織の活性化

1の目標と戦略実現についてはよく言われる気がするのですが、2も同時に考えるのがポイントなのかなと思いました。組織の活性化をみる手法として、Collaboration Network Analysisを使った分析については別エントリにもまとめています。

当たり前のことでつまらないと思うかもしれませんが、これらの目的をご自身の言葉で定義してみると目線が揃う気がします。

■最初に考えること

では採用にPeople Analyticsを活用したいよ!と思ったとき、まず何から考えればいいのでしょうか?

データを見ることでも、AIの活用でも、他社事例でも、HR Techの製品導入でもありません。

最初に考えるべきことを整理するために、ヘンリー・ミンツバーグによる経営における3つの役割を引用します。

「 アート」は、組織の創造性を後押しし、社会の展望を直感し、ステークホルダーをワクワクさせるようなビジョンを生み出します。

「サイエンス」は、体系的な分析や評価を通じて、「アート」が生み出した予想やビジョンに、現実的な裏付けを与えます。

そして「クラフト」は、地に足のついた経験や知識を元に、「アート」が生み出したビジョンを現実化するための実行力を生み出していきます。

↑山口周さんの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(2017)より引用

そして「採用×People Analyticsを始めたい人が何から考えればいいのか」という冒頭の質問に端的に答えると、「まずはアートから」となります。

つい好みの色合いで派手に表現しましたがw、こんなイメージです。

最初に考えること 筆者作成

[Step 1] アート:美意識を一枚絵にする
[Step 2]サイエンス:データという貴重な資源を未来に残す
[Step 3] クラフト:実行する

People Analytics ≒ サイエンスの位置付けですが、全体としてはアート→サイエンス→クラフトの順で活動を行います。まずアート。

その後、サイエンスに戻ってクラフトの効果測定を頻繁にしながら、定期的にアートを見直す。これらをぐるぐる回していくイメージです。

少し抽象的になってしまったので、それぞれの機能を実務へ落とせるレベルまで詳しく解説していきます。

[Step 1] アート:美意識を一枚絵にする

これは分析の依頼を受けるときにほぼ毎回感じるのですが、兎にも角にも全体のビジョン、そしてビジョンを達成するためのデザインがないと迷子になります。

つまり、全体を見たときに「この共同体が描く姿が何か、ありたい美意識は何か」を決めることから始まります。この美意識がない限り、その後の分析はほとんど意味を持ちません。時間 will be 無駄。

次に、そのビジョンを実現するためにどんな機能が必要か?のデザインを行います。最近感動した設計の事例でいうと、株式会社FiNC Technologiesさんのケースです。

半年でeNPSが30ポイント改善!FiNCの、エンゲージメントを高める組織の作り方とは

こちらの記事では、以下を組織プロセスとして整理されていました。

図示化した組織戦略のシステム(赤:社内改善、橙:発信、緑:採用) Source: SELECK

タイトルではエンゲージメントについて言及されていますが、この取り組み全体が素晴らしくて悔しくなりました。この組織は、ファンが多く採用が強そうですよね。

正解不正解などはないと思うので、その組織で美しいと思う姿をデザインすることが何より大切です。

ちなみに、このフェーズで言葉の定義をしっかり決めると良いと思います。
・この組織で働く全ての人に求めるバリューは何か?
・この組織でそれぞれが持つ役割は何か?それぞれの役割で求める成果・性質とは何か?

など。

特にベンチャー企業は、目の前の採用で超忙しいと理解してます。ただ確実に言えることは、ビジョンからデザインまで含む一枚絵がない限り、アナリティクスの活用という側面で、前に進むことはできないと思います。

経験不足な私からアドバイスをする気はありませんが、もし悩むことがあれば、まずは上でご紹介した論文や事例などを参考にして下さい。

ちなみに私の一番好きな方法は、自然、建築物、美術作品など、世の中にあるいろいろな形を参考にすることです。

小説家のジョナサン・レセム曰く、

「何かを”オリジナル”と呼ぶやつは、十中八九、元ネタを知らないだけなんだ」

完全同意。元ネタはこの世界のあらゆるところに散らばっているので、真似していきたいですよね。

[Step 2]サイエンス:データという貴重な資源を未来に残す

これは実体験を持って伝えますが、これは未来の誰かを救うステップです。経験上、人事データの中でも採用のデータと向き合っている時が、もっとも苦しくて、発狂しそうになります。
ここで考えるべきことは山ほどあるのですが、特にデータ関連で先に決めておくと大事だと思うポイントを4つだけピックアップして紹介します。

①[Step 1]で決めたアート(美意識・デザイン)はきちんと定義できているか
・その募集ポジションを、数年跨いでも意味が変換できる形で定義できているか(エンジニアでも種類があり可変である前提) 。できるだけ外部とリンクしやすい分け方をおすすめします。そろそろ2019verがリリースされると思いますが、Stack Overflowの出すこのレポートはまじ卍です。

これ以外にも、
・募集をかけたポジションがどの程度の成果を出せば良いか答えられるか、何年でどの程度成長するのが理想か
あと当たり前ですが、採用活動の前に要員計画(Workforce Planning)ができていない場合は危ないです。

②”はたらく”に関わる人の種類は考え抜かれているか
”はたらく”に関わる人をユーザーとしたとき、その種類をどうするか・同一のユーザーかどうか判定するロジックをどうするかなど先に決めておくと便利です。
・イベントに参加した人
・スカウトやリファラルなどでアプローチした人
・応募した人(その後入社した人、不合格だった人、辞退した人)

一例ですが、採用前のプロセスの整理としてJobviteが出している考え方をシェアします。

Source: Jobvite

また、入社後のユーザーもきちんと定義しましょう。

・入社後退職した人
・業務委託やアルバイトで来てくれている人

③評価指標は揺るぎのないものか
この観点は、たとえば「選考プロセスが異なる場合でも、採用時評価は比較可能性と一貫性をもった指標となるか」に言い換えられます。

・同職種の選考時、人によってプロセスに差異があっても採用時評価を比較できる形にしているか
・採用年度を跨いだときに、どの評価が過去履歴と対応するのか

ちなみに、入社後に行われる年次評価についても同様の課題を持ちます。

5年や10年のスパンで見たとき、おそらくほとんどのベンチャー企業が評価制度を変えると思います。それらが変わったとき、何が何に対応するのかを決めないと危険です。評価データはモデルを作るときに目的変数になることが多く、そこがぐちゃぐちゃだとGaverge In, Gaverge Outがいとも簡単に起きるので注意です。

④社内の全てのポジションに対してスキルやコンピテンシーなどの基準が定義できているか

・Workforce Analyticsを行う際にも、これらのスキルやコンピテンシーはできるだけ正確に汎用的な基準が設定されているとスムーズです。
・更には、以下の研究のように、外から採用する場合と内から異動させる場合どちらが良いのか比較をしたいときがいつか来ます。

先ほどご紹介したStaffingのエントリにも書いていますが、採用or昇格?は日本の企業では参考になるのではないでしょうか。

Bidwell (2011) Paying More to Get Less The Effects of External Hiring versus Internal Mobility

①〜④をご紹介しましたが、これらのデータはプライバシーやコンプライアンスに十分注意をした上で、すぐに繋げて分析できる環境にしないといけません。

環境構築という観点で、メルカリさんのお取り組みが素晴らしいと思いました。いいなー、さすがだなー。

また、事業側の指標などと組み合わせやすいような設計にすると、更に未来の自分たちを救うと思ってください。

[Step 3] クラフト:実行する

最後に、みなさんが得意な領域です。Step1で形づくった美意識に則って、Step2でちゃんと整え、このStep3で具体的なアクションに落としてください。クラフトについては、すでにケーススタディで溢れています。独創的なアイデアが多く、既に色んな施策を打っている企業ばかりですよね。

ミートアップを実施するもよし、いけてるHRサービスを使うもよし、奨学金を作るもよし、面接やめるもよし、もう何でも良いと思います笑

但し、必ずサイエンスで振り返れる形にしてください。何の効果を狙ってるのか?を定性・定量で語れるようにしておくだけです。

また余談ですが、狙いを持たずに適当にデータを保管した場合、後からデータを綺麗にするのは、めっちゃくちゃ大変な作業です!!!
あの日あの時あの場所で採用担当でいなければ、実は正しく意味を読み解けない場合ばかりで、歴代採用担当者一人一人に「これってどういう意味ですか?」とか聞き回る必要があります。東京ラブストーリーどころか、リアルドラクエもいいところです。

しかも、助けるのは自身のパートナーではなくデータ。わたし、そんなの頑張れない。

しかもしかも、もしその担当者がすでに退職しちゃってる場合は、迷宮入りです。あきらめなくてもそこで試合終了…というか、あきらめないと掛ける時間が膨らみすぎて、ただのインタビューフリークになります。

まあ、それもそれで萌え…

とにかく!

長くなりましたが、あくまでもPeople Analyticsを活用したいと思う視点で、このアート・サイエンス・クラフトの役割と順序を大事にしながらぐるぐる行き来することを激しくお勧めします。

<2>採用×People Analyticsが活きる4つの領域

続きまして、これは私なりに見た採用×People Analyticsが活きる4つの領域とツールや事例をさらっとご紹介します。

■4つの領域の定義

その4つとは、 1. パフォーマンス、2.体験価値の向上、 3.工数削減、4.育成です。

Breaugh and Starke(2000, p.409)の採用後の成果(post-hire outcome)と採用前の成果(pre-hire outcome)を参考にしながら独自で作りました。

図にしてみたのですが、またしても意味がわからないと思うので解説させてくださいw

Breaugh and Starke(2000, p.409)を参考に筆者作成

まず横軸。Hire(採用)を中心とし、左を採用前(Pre-hire)、右を採用後(Post-hire)としました。

次に縦軸。これは上をOutput、下をInputとしています。Outputは広義の意味での採用で出すべき成果、Inputはその成果に対して投入した資源だと捉えてください。

この2つの軸で、4つの象限ができました。以下にて、それぞれの事例やツールをさらりとご紹介します。

  1. Performance:パフォーマンス(Pro-Hire Output)
    採用後の成果(パフォーマンス,離職率,組織活性)
  2. Candidate Experience: 体験価値の向上(Pre-Hire Output)
    採用前の成果 (ブランドイメージ,応募数/質,多様性など)
  3. Reduction: 工数削減(Pre-Hire Input)
    採用前にかける資源(採用までに費やした人的資源や予算など)
  4. Development:育成(Pro-Hire Input)
    採用後にかける資源(育成,マネジメントに費やすコストなど)

ちなみに再三繰り返しておりますが、既にご説明した1.アートと2.サイエンスのアクションを終えてからでないと、以降ご紹介する事例は全く参考になりません。なぜなら、ご自身の美意識を形作ってからでないと目先の手法に飛びついてしまうからです。ここでも時間 is 無駄。

では以下でそれぞれの事例やツールをさらりとご紹介します。

1. Performance:パフォーマンス(Pro-Hire Output)

採用後のパフォーマンスです。これは予測をするというよりも、クラフトで行った採用の効果測定・評価をするときに分析を行ってください。例えばパフォーマンスの定義、離職率、組織活性などが指標として挙げられます。

・マネーボール
セイバーメトリクスを用いたチーム編成の事例。野手を選択する重要な要素を出塁率,長打率,選球眼,慎重性とし、一方で投手を選択する重要な要素を与四球,奪三振,被本塁打,被長打率とした。これらの要素をPost-Hire Output(27個のアウトを取られるまで出塁し続ける)ためのKPIとして定め、スカウトを行った伝説的なストーリー。

・パフォーマンスに寄与する採用手法とは

既にStaffingのエントリで掲載していますが、有名な研究なのでこちらでも紹介します。

以下であげた採用手法のうち、どれが入社後のパフォーマンス予測に効果的か?
1.職務知識テスト Job knowledge tests
2. 認知能力テスト Cognitive ability tests
3. パーソナリティテストPersonality tests
4. リファレンスチェックReference checks
5. 構造化面接 Structured interviews
6. 非構造化面接 Unstructured interviews
7. ワークサンプル Work samples
8. 誠実度テスト Integrity tests

答えは以下の通り。

Ryan & Tippins (2004) Fig Source: People Analytics 101: Getting Hiring Right

上の結果が有名ではありますが、元になっている論文の結論にもある通り「時と場合によって係数は変わる」とのことです。ちなみに統一して比較できる形にしているものの、それぞれの係数は1990年代後半〜2000年代前半に発表された別々の論文から引用されてます。

何を評価にするかですが、やはり採用手法は全てその後の業績と結びつけることは経営において重要かと思います。

・ダイバーシティ&インクルージョンの課題を採用時に解決

また以下の記事ではAtlassianのDiversity&Inclusionにおける取り組みについて書かれています。「エンジニアにおけるダイバーシティの課題が、実は採用の母集団形成にあった」という分析事例から、採用時のダイバーシティの重要さも伺えます。

・ スターを作るネットワーク構築

これは少し毛色が異なりますが、採用の2つ目の目的である組織の活性に重心をおいた場合、Kelly(2011)が実施した「ベル・スター研究」からも面白い示唆があります。これは、英知の集まる研究機関・ベル研究所で「 花形研究者( スター) と平均レベルの研究者では何が違うのか」を研究したものです。

その結果、スターは平均レベルの研究者と異なり、他の専門家たちと事前に強い関係を築き、その関係に頼るという「準備的探求」を、自身のタスク前に行なっていたことが判明しました。またスターと平均レベルの研究者の築くネットワークには、 ①ネットワークの強度 ②人の多様性の2つに大きな違いがあったとのことです。採用後ネットワークを強く作れる人の特性などを見て、採用のプロセス改善などをしても面白いかもしれません。

2. Candidate Experience: 体験価値の向上(Pre Output)

個人的に、ここが一番注目領域だったりします。考え方は非常に簡単で、Candidateだけではなく関わる全ての人の体験価値を上げる活動ために何をすればいいか?というお題です。

一旦、Pre-Hire Outputということで入社していないステータスのみに絞ります。つまり、Employee Experience以外全てですね。大きく分けると、3つのファネルがあります。

Three Funnels 筆者作画

①Attraction: 応募前のタレントプール的な方々
②Selection : 応募から入社までの方々
③Alumni : 入社経験のあるOB/OG

これら3つのファネル別に、体験価値を向上させ、広義の意味で組織のファンを作っていく活動に対しAnalyticsはもってこいです。既に事業サイドのマーケティングで発達している分野なので、その考え方やノウハウを応用するのみかなと思います。

・私よりも私に合ったオファーをくれる(①Attraction)

・カルチャーフィットなタレントを探せる(①Attraction)

・場所に関係なく面接が行なる(②Selection)

・バイアスの排除(②Selection)

採用時点のバイアスを防ぐ。2018のHR Technology Conferenceでも賞をとった2つのサービスは採用×ダイバーシティでした。

・アラムナイに特化したサービス(③Alumni)

サービスのご紹介はかなり掻い摘んでお伝えしているので、少し古い記事ですがワークス研究所が出しているこのシリーズをご確認下さい。

Source: リクルートワークス研究所

3. Reduction: 工数削減(Pre-Hire Input)

この領域での事例はかなり多く見かけますし、コストメリットの目標が立てやすいので、一番導入がしやすいです。自社内で開発せずとも、AIなどを使った製品が大活躍する領域かと思います。

・Googleが面接回数を4回にしたお話
おそらく工数削減で一番有名なのが、「今まで数多く行なってきた面接の回数を4回にすることで、採用の質を落とさずに面接工数を削減したこと」ですよね。さらに、実質的に面接者がひとりだけの場合、その評価はあまり役に立たないということも同時に書かれています。

面接の回数だけでなく、どのような方法をとるかなど常にフィードバックを取り入れながら改善しているのも真似したいところです。

・採用における事務作業を自動化するツール

・ワトソンを使ったESの自動化

・なんといってもGoogle様のGoogle for JobsとGoogle Hireがやばみ

ここでは紹介していませんが、コミュニケーションをbotにしたり、動画面接で判定させたり…これは業務プロセスがきちんと設計されていれば、様々な角度で自動化できます。People AnalyticsだけでなくAutomationが活きる領域ですよね。

4.Development:育成(Pro-Hire Input)

この領域はもっと掘りがいがある気がするのですが、あんまりできていません。国内だとセプテーニさんがかなり進んでいますよね。

・成長の方程式を定め、採用前だけでなく採用後のパフォーマンスや支援方法へ活かす

記事では工数削減の話が書かれていますが、個人的にポイントだと思うのは採用後の配属・育成へ活かしていることだと思います。

・ポテンシャルの評価をどこで行うか

先日行われたSIOP(米国産業・組織心理学会)でも、ハイ・ポテンシャル人材の開発は一つ重要なトピックとして扱われていました。

実際参加してみたかったのですが、素晴らしいレポートがリクルートマネジメントソリューションズさんから出ていたので引用します。
米国産業・組織心理学の最新動向 SIOP(米国産業・組織心理学会)2018 参加報告

まずポテンシャルとは何か。

ポテンシャル(potential)とは、“ある人がキャリアにおいて到達できる可能性のある最高到達点”と定義されます(Finkelstein, Costanza, Goodwin, 2018)。新たな仕事が次々と生まれてきたり、優秀な人材の供給が限られたりする状況下で、採用した人のなかからいわゆるスターを発掘し、育てようというのが、背景にある考えです。

また、次にどのようにそれを測るのか。

ポテンシャルの評価については、いわゆるパーソナリティや一般知的能力のほかに、学習する能力としての態度、リーダーシップに関しては、リーダーシップ効力感、ダークサイドを含めた自己理解、などが挙げられています。

この辺は、FFSストレングスファインダーなどが有名ですよね。
また、以下についても言及されていました。

育成については、チャレンジングな経験をさせることは効果的ですがやりすぎないこと、現状に変化を与える介入が効果的であること、経験後のレビューを行うこと、自己理解を促進すること、などが勧められています。ちなみに、現在のところ採用ではなく、育成の方がよいという意見の方が多いようです。

採用と育成、切っても切り離せない関係です。

■むすび

この記事でお伝えしたいことは以上です。無い知恵絞って書きました。いつも長くなってすみません。

さてさて。People Analyticsと聞いて、分析手法が紹介されると思った方も多いのではないでしょうか。まずは他社みたいに決定木のほうがわかりやすいのかとか、ロジスティック回帰を人事に活かす方法とか、採用のAIはどんなネットワークにしているかとか、分析組織をどう作ったらいいかとか…そんな方法はどこにでもありますし、自分の頭で考えれば自ずと答えにたどり着くと思います。(あ、実際手を動かしている方は、ぜひ一緒にもくもく会でもしましょう)

無論People Analyticsだけに限らず、少なくとも何かの分析を活用した意思決定を行う場合、何より大事なのは目的・ビジョンであり、美意識です。

この美意識を理解しこだわり抜けるかというのが、People Analyticsに向き合う人たちに突きつけられた命題だと考えています。

最後に、この美意識の大事さを改めてお伝えすべく、料理に例えて分析の在り方をご紹介します。

河本薫 (2013) 『会社を変える分析の力』を参考に筆者作成

つまり調理法は、作りたい料理によって選択され、

提供したい料理は、どのようなコースを描くかによって選択され、

どんなコースを描くかは、どのような人に喜んでもらいたいか・お店の在り方によって選択されます。

したがって、

「社員数少ないからまだデータ少ないし…」「採用担当だし…」と思わずに、 採用・育成・評価・異動など人事のアクション全てを捉えながら、採用がこの一枚絵の大事な一要素としてどうあるべきか考えて下さい。

すでに美意識を一枚絵にしている場合は、全てがちゃんと繋がるサイエンスの整備に今すぐ着手してください。

そしてそのサイエンスが終わっている方は、ぜひクラフトでケーススタディを作り、成功だけでなく失敗も含めてシェアし合いましょう!

■参考文献

ここで挙げているほとんどの論文は私が独自に持ってきたものではなく、以下の著書を参考にしています。ぜひ読んでみてくださいね!

服部 泰宏 , 矢寺 顕行 (2018) 『日本企業の採用革新』(中央経済社)
服部 泰宏(2016)『採用学』(新潮選書)
Kang Yang Trevor PhD Yu , Daniel M. PhD Cable(2013) The Oxford Handbook of Recruitment (Oxford Library of Psychology) (English Edition)
ラズロ・ボック(2015)『ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』(東洋経済新報社)
アレックス・ペントランド(2015)『ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学』(草思社)
河本薫 (2013) 『会社を変える分析の力』

普段は冴えない私ですが、今回ばかりは自分なりに全力投球しました。校正に付き合ってくれた

、そして ありがとう!

声をかけてくれた庄田さんには感謝しつつ、ついでにおにやんまでもごちそうしてもらいたいと思います。よろしくお願いいたします。

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marumaru

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