Zapposに感動している話-前編-

marumaru
16 min readDec 25, 2018

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こんにちは。平成生まれ平成育ちのmarumaruです。世はメリークリスマス、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

さて、もう今年もあと6日。2018年を振り返ろうと思った時、一番のハイライトはやはりZapposへの訪問だったので、ここにまとめます。

皆さんはオンライン靴屋のZapposという企業をご存知でしょうか?

徹底したカスタマーサービスや個を活かすカルチャー、ホラクラシー組織といえばZapposなので、スタートアップの経営者や人事の中ではご存知の方も多いのかなと思います。

この記事では、

Zapposはカルチャーやそれを支えるユニークな取り組み単体ではなく、

・市場環境を見極めること(前編)

・そこでどう価値を磨くのか(後編)

この2つこそが学ぶべき本当の素晴らしさである。

ということをつらつらと書きます。People Analyticsとは全く関係ないです。

完全なる趣味、かつ、個人の意見、かつ、トニーシェイへのお慕いの気持ちなので、優しい眼差しで読んでください。そして、私のクリスマスは全てここに詰まっているので、可能な限りそれも汲み取ってください。

きっかけ

前回の記事をきっかけにお会いした方々にお悩みをお伺いするなか、ほとんどのケースでZapposの文化や取り組みを共有しました。

実は、今でこそZapposのアンバサダーってくらいほぼ毎日「Zappos最高」といってますが、恥ずかしながら今年9月にオフィスツアーに参加するまで、Zapposという企業についてよく知りませんでした。

なので、このタイミングで調べ出すなんて、詳しい方からすれば「今さら…⁉︎」と思われるかもしれません。

なぜなら、2009年にAmazonに買収され、同年『ザッポスの奇跡 The Zappos Miracles―アマゾンが屈したザッポスの新流通戦略とは』が発売。また翌年2010年に、CEOであるトニーシェイの『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか』が発売されています。近年ではホラクラシーの導入などで、何かとニュースになっているからです。

そんなこんなで臨んだZapposのオフィスツアー。あまりにも衝撃的な体験で言葉になりませんでした。

2018.09訪問時に撮影 コワーキングスペース
2018.09訪問時に撮影 オープニングムービー的な

以前シリコンバレーでAppleやGoogleなど最先端と呼ばれるようなオフィスにも訪問させていただきましたが、Zapposほど心を震わされたオフィスツアーは未だかつて体験したことがありませんでした。

2018.09訪問時に撮影 オフィスの様子

今回の記事では以下の構成で書こうと思います。

  1. 知る: Zapposとは何か
    ・Zapposを取り巻く環境
    ・トニー・シェイについて
    ・Zapposの歴史
    ・Zapposのコアバリュー
  2. 学ぶ: 私たちはZapposから何を学ぶのか
    ・どのテーブルに着くのか
    ・そのテーブルで何を磨くのか

今回もめっちゃ長くなってしまったので、本気の方だけ読んでください笑

また、2010年頃に発売された本などを参考にしながらのまとめなので、少し古いかもしれません。補足や最新情報あれば知りたいので、ぜひコメントください!

1. Zapposとは何か

「カスタマーサービスといえばZappos」と言われるこの頃ですが、まずZapposとは一体どのような企業なのでしょうか?

https://www.zappos.com/

Zapposを取り巻く環境

まずはじめに、今でこそ当たり前となっているE-Commerce。特に小売は世界を見てもECの影響が大きく、つい2ヶ月前のビッグニュース( 米シアーズ、破産法の適用申請-オンライン販売に顧客奪われ )も記憶に新しいと思います。
さて、20年ほど前は一体どのような状態だったのでしょうか。

・1994年にAmazonが創業
・1995年にebayの前身とされるAuctionWebがサービス開始
・1999年にZappos創業

当時は、全領域のECでも0.70%の市場規模。今の約14分の1程度です。

U.S. E-Commerce Sales as a Percent of Total Sales 1999–2018

さらに、試着を必要とする靴を「インターネットで買う」ということは、その中でもありえないと言われていたそうです。

ちなみにリテールだけでみると、今は13%を超えていますが、つい5年前までは5.8%でした。

E-commerce share of total retail sales in United States from 2013 to 2021

また、靴をインターネットで販売していたのはもちろんZapposだけではありません。

例えばあのAmazonも、2007年1月、通常サイトとは別にEndless.comという「返品OK,送料・返送料無料,24時間年中無休の電話対応」のサービスをローンチさせました。このように、Zapposを模倣したサービスがいくつも登場するなど、かなり激しい競争環境だったことが予想されます。

そんな中、Zapposはどのように成長していったのでしょうか。

EC市場については調べても足りないほどですが、今回の主旨とずれるので割愛します。今の市場環境については、このサイトでもわかりやすくまとまってます。

トニー・シェイ(Tony Hsieh)について

Zapposの歴史の前に、現在のCEOであるトニー・シェイについても少し補足します。彼なくしてZapposは語れません。というか、語りません。好きです。大好きです。

例えばこんなコメントが寄せられたり。

「ザッポスの影にいる起業家であり参謀のトニー・シェイを知らないなら、間違いなくよく知っておく必要がある。シェイはザッポスを12億ドルの事業に育てたビジネスの才を持つだけでなく、革新的な経営手法の創始者でもある。彼の成功の戦略は、顧客を幸せにする革命となり、この秘訣により、シェイはこの時代で最も尊敬され賞賛されるCEOの1人となっている」(Brandmakernews.com 2010年10月28日)

また、こんなコメントまで。

「まだビル・ゲイツやウォーレン・バフェット、スティーブ・ジョブズのように誰もが知る名前ではない。しかし、何カ月かすれば、おそらくそうなるだろう」(AOL Money & Finance、Luxist.com 2010年7月28日)

ゲイツ、バフェット、ジョブズと比べられる男 ザッポスの若きCEOトニー・シェイの正体にある通り、彼への賞賛は留まる事を知りません。

▼超簡易版!トニーの経歴
・1973年12月12日生まれ
・ハーバード大学(コンピュータ・サイエンス)卒業
・卒業後、オラクルへ入社
・在職中にインターネット広告ネットワーク会社のリンクエクスチェンジ創業
・1999年にリンクエクスチェンジをマイクロソフトに2億6500万ドルで売却(当時24歳)
・1999年 Zappos創業へ投資、その2ヶ月後にCEOへ就任
・2009年 同社をAmazonへ12億ドルで売却(当時36歳)

もっともっと彼については知ってほしい事がいっぱいですが、彼の著書や取材でも書かれている通り、Zappos社員にトニーの特徴を尋ねると、まず出てくるのは「誰よりも謙虚である」ということ。

社内で行われたイベント後、ある社員が「最後まで残って箒で掃除をして人がいるなー」と思って目を凝らしてみたら、それがトニーだったというエピソードもあります。

そんな彼はコンドミニアムからキャンピングカーへ引っ越し、アルパカと一緒に暮らしているそうです。あまりにも素敵で、胸がいっぱいになりますよね。マーレイちゃん!!!会いたいよ!!!!

Zapposの歴史

細かくは色々な修羅場がありますが、一旦ここでは概要についてのみ触れます。

【Zappos.com, Inc 概要】
・CEO
:トニー・シェイ
・業態:靴を中心としたECサイトの運営
・従業員数:約1,500人
・歴史
1999年:サンフランシスコで創業
2004年:本社をラスベガスに移転
2008年:創業から10年足らずで売上10億ドル(1,000億円)に到達
2009年:フォーチュン誌「最も働きがいのある企業100社」にランクイン
2009年:約9億ドルでAmazonに買収、Amazon傘下に
※しかし、自社の文化を維持したまま独立経営をおこなっている
2011年:フォーチュン誌「最も働きがいのある企業100社」で6位にランクイン。初のTOP10入り
2013年:ラスベガスのダウンタウンに本社を移転
2014年:ホラクラシーの導入
・新規顧客獲得の43%がクチコミ
・顧客のリピート率75%

全米注目のザッポスに行ってみたら予想以上だった|顧客・社員に愛されるネット靴店の「企業文化」への徹底したこだわり より引用・一部加筆

また、上の概要でも一部出てきていますが、売上高の推移もすごい。

業績好調を続けるザッポス

2015年、いまや売上高3000億円を越える勢いで、1500人規模に至ったザッポス。売上高は、

2008年 1000百万ドル
2010年 1640百万ドル
2012年 2158百万ドル

と快進撃を続けている。社員一人当たり売上は増加を続け、もちろん増益基調だ。2014年54.5百万ドルだった営業利益は、2015年は97百万ドルの見込み(Las Vegas Review-Journal)。

世界を驚かせ続けるザッポスとトニーシェイのいま より

靴のECなんて!と言われていた時代から、紆余曲折あり今のZapposとなってます。

Zapposのコアバリュー

また、Zapposといえばバリュー、バリューといえばZapposです。

https://www.zapposinsights.com/about/core-values

Zapposはミッションの変化に伴い、およそ1年かけてこのバリューを作りました。

■10のコアバリュー
①サービスを通して「ワオ!」という驚きの体験を届ける
②変化を受け入れ変化を推進する
③楽しさとちょっと変なものを創造する
④冒険好きで、創造好きで、オープン・マインドであれ
⑤成長と学びを追求する
⑥コミュニケーションにより、オープンで誠実な人間関係を気づく
⑦ポジティブなチームとファミリー精神を築く
⑧より少ないものからより多くの成果を
⑨情熱と強い意志を持て
⑩謙虚であれ

最初これを見たとき、「多!!」と思ったのですが、バリューの中にもシーンによっては強弱があるみたいで、採用では特に「謙虚であれ」が意識されているとのことです。

以上、簡単ではありますがZapposについて少しだけご紹介しました。なんとなくのイメージが湧いたところで、本題へ進みます。

2. 学ぶ:私たちはZapposから何を学ぶのか

あくまで個人の意見ではありますが、環境も文化も事業も異なる私たちが、あのAmazonをも震撼させたZapposから、一体何を学ぶのでしょうか。

冒頭でもお伝えしましたが、Zapposの素晴らしいところは、

①どのテーブルに着くのか:市場環境を見極めること

②そのテーブルで何を磨くのか:幸せを届けるための磨きこみ

そして、これらの組み合わせであると考えます。

筆者作成

どのテーブルに着くのか

事業を行うにあたり「市場環境を見極める」というのは、至極当然の話かもしれません。ただ、トニーが本の中でポーカーを例に彼の経営に対する考え方を述べていました。個人的にはそのパートが金言すぎてびっくりしました。

どのテーブルに着くかということが、私にできる最も重要な意思決定だということでした。これには、いつテーブルを替わるかということも含まれます。
−「ザッポス伝説」より

ここでいうテーブルとは、一見どんな業界・フィールドで戦うか、とも取れますが、トニーの言うそれはもっと広義のようで、何を価値基準とするか、何を目指すか、と言った意味が込められていると思っています。

そしてその後で、どのようなファイナンスをするべきか・相手を意識した手札の出し方など、それぞれについて解説しています。

つまりZapposは、靴のECに商機を見出しそのテーブルについた。まずは、そこが成功のきっかけになるのかもしれません。

また、先ほどの言葉を見ると、最初に着くテーブルだけではなく、途中でテーブルを替わることもテーブル選びのくくりに入ります。

Zapposのテーブル移動を、ブランドの進化で追ってみましょう。

1999年 「最大の靴の品揃え」
2003年 「カスタマーサービス」
2005年 「プラットフォームとしての企業文化とコアバリュー」
2007年 「個人的な心のつながり」
2009年 「幸せを届ける」

この変遷を見ていただくとわかるように、最初から「幸せ」に焦点を当てていたわけではなく、創業から10年がかりの旅の中で、今の「Delivering Happiness」へ行き着いたのです。

「ザッポス伝説」「世界を驚かせ続けるザッポスとトニーシェイのいま」を元に筆者作成

最高のカスタマーサクセスチームを作ったから成功したわけではなく、彼らは座るべきテーブルを見極めたのです。そして、それぞれのタイミングで、座るべきテーブルを見極め移動していったのです。

このテーブルの見極めについてわかりやすい事例は、先ほどもご紹介したAmazonが2007年にローンチしたEndless.comとの競合です。

Amazonは通常のサイトでも靴の販売をしているにも関わらず、そことは切り離し、以上のサービスをローンチしました。対Zapposとして、業界からも一目置かれる一大プロジェクトだったそうです。アメリカだけでなく、日本・イギリス・フランス・ドイツでも、JavariというEndless.comのミラーサイトが作られました。

実はEndless.comでは、2009年時点で通常品もセール品も、Zapposと全く同じ商品を20–30%ほども安く販売していました。

最近のモバイルペイメントの事例然り、経済合理性の観点ではEndless.comで購入する方が圧倒的にお得。ただ、この時Zapposは既に顧客もスタッフも個と捉えた「心のつながり」を大切にする方針を示していました。当時の実績は定かではありませんが、新規顧客も口コミが多く、リピート率も高い(75%程)。つまり、直接的に顧客に対しても、その顧客を通じて次の顧客に対しても心の繋がりがあったからか、先ほどの図示の通り、Zapposは2007〜2009年にかけても持続的に成長をしています。

結果的に、買収も合間ってEndless.comは2012年に閉鎖しましたが、もしこの時Zapposが「最大の靴の品揃え」を貫いていたら、同じ結果にはなっていなかったのではないでしょうか。

もちろん、テーブルを移ることは容易ではありません。

例えば、Zapposは売上が成長している期間であったとしても、何度かレイオフを実施しています。ラスベガスへオフィスを移す時も、たくさんの人が退職しました。これらの犠牲を払ったとしても、的確なタイミングでテーブルに合わせた意思決定を行なってきたのです。

賛否両論ありますが、言いたいことはどのテーブルに着くか。そして犠牲を覚悟しながら、常に着くテーブルを変えていく姿勢があることです。

彼らの凄まじいほど密度の高いカルチャーやユニークな制度に飛びつく前に、大前提としてどのテーブルに着くかを見定める、そして変化を恐れない姿勢を真似したいなと思います。

2018.09訪問時に撮影 ラスベガスへの移転

続きます。

前編の最後に、トニーの言葉を引用します。

まず、今回この記事を書くために参照している書籍の原題は、

Delivering Happiness — A PATH TO PROFITS, PASSION, AND PURPOSEー

直訳すると「幸せを届けるー利益・情熱・意義への道ー」です。

その中で、こんなことを伝えていました。

最高のビジネスには利益・情熱・意義が重要です。
最高のビジネスとは、この3つの要素を全て揃えたビジネスだということです。
情熱を追うだけでも、意義を追うだけでもだめで、利益を確保する方法を考えなくてはなりません。生きていくためには、利益も必要ですから。
−トニー・シェイ

Zapposは市場機会を見極めて、利益を追求し、同時に情熱や意義をもち、何より幸せを届けることに夢中になっているのです。

前回の反省を活かして、記事を分けました。

後編もぜひ読んでくださいね!

↓後編の記事はこちら

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marumaru

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