こんにちは、marumaruです。同日に後編の公開をします。というか、今回も長くなったので分け分けしただけです。
まず、前編の内容について。
<前編>
- 知る: Zapposとは何か
・Zapposを取り巻く環境
・トニー・シェイについて
・Zapposの歴史
・Zapposのコアバリュー - 学ぶ: 私たちはZapposから何を学ぶのか
・どのテーブル座るのか
さて後編では、
2. 学ぶ: 私たちはZapposから何を学ぶのか
・そのテーブルで何を磨くのか について書きたいと思います。
前回に引き続き、この記事では以下を伝えることを目的としています。
Zapposはカルチャーやそれを支えるユニークな取り組み単体ではなく、
・市場環境を見極めること(前編)
・そこでどう価値を磨くのか(後編)
この2つこそが学ぶべき本当の素晴らしさである。
もしまだ前編を読んでいない方いたら、ぜひそちらから読んでくださいね!
2. 学ぶ:私たちはZapposから何を学ぶのか
②そのテーブルで何を磨くのか
着くテーブルを見極めたところで、その磨き込みの素晴らしさに話を移します。
もちろん着くテーブル次第で、磨くべきことは異なります。
今のZapposは「幸せを届ける」ために、顧客・パートナー・投資家・従業員など関わる人たち全てが幸せになるためのアクションを磨いています。
幸せについては様々な研究がありますが、ここではトニー自身ががいくつかの研究を応用しながら作ったフレームで話を進めたいと思います。
それは、Zapposが幸せを届けるために必要な4つの要素になります。
1.自分で自分をコントロールする
まずは、自分で自分をコントロールすることについて。
少し広い意味で捉えつつ、いくつかの事例をご紹介します。
■「もし欲しかったら自ら掴みに行こうよ」方式の研修
まず、研修好きな人って世の中にどのくらいいるんでしょうか?
私はすっごく苦手でできる限りばっくれたいと思っています。これも印象ですが、日本だと「人事が勝手に受講必須にする」とか「行けって言われたから」とか受動的なものが多い気がします。
しかし、Zapposは違います。自ら取りに行くんです。
Zapposのコールセンターには「スキル・セット昇給制度」というものがあります。約20個のスキルセットがあり、それに対して小額の昇給が設定されています。各スキルどれを選びトレーニングに参加するのか否か、どのくらいのスピードで参加するかなどもオペレーター次第です。
それだけではありません。
Zapposにはパイプライン・チームという研修を提供するチームがあります。もちろん、パイプライン・チームの提供するコースは自由に自分で選択して受講可能。もし次の役割へ昇進をしたい場合は、提供研修のいくつかを受講が必須になっています。ただし、受講するかどうかはそれぞれ個人に任せています。
機会の在庫はたくさんあるので、自分で飛び込んで自分で成長して行ってね!というメッセージだと思います。
■「自らの頭で考え行動せよ」方式のコールセンター
また、コールセンターなどカスタマーサポートチームを運営している企業も多いと思います。多くの企業は、右を向けばマニュアル、左を向けばスクリプト。…誰もが働きたいと思える職場のイメージは、あまりありません。
しかし、Zapposのコールセンターでは、マニュアルもトークスクリプトもありません。顧客1 人当たりの対応時間も決めていないので、最長7時間電話を続けた事例もあるとか!バリューが浸透しているZapposだからこそ、社員自身が考え、動くようにしているそうです。
少し話は逸れますが、トニーは「この広告が多い時代で目に止まらせようと各社が躍起になっていることがおかしい。顧客と3分も1on1で会話できるこの時間こそがマーケティングの最大の機会だ!」的な発言を各所でしており、このチームをブランディング・マーケティングだと思っているのも理解できます。
■自由自在なZapposライフを!
今年は「働き方改革」とかいうワードを至る所で聞きました。あんまり好きではないもののミーハー魂の方が強いのでその流行りに乗っかって、Zapposツアーの帰りでも「リモートワークっていけるんですかあ?」って感じでちらりと聞いたところ、
Zapposのエンジニアやビジネスサイドの人たちは、リモートワークも可能とのこと。完全リモートワーカーがいるかどうかは定かではないですが、週1〜月1など働き方は様々でした。リモートワーク導入!とかはあんまり記事では取り上げられてないですが、割と当たり前なんですね。
また、自由自在&個性と言えば、席の装飾!!!
Zapposは固定席で、自分の席の飾りつけはそれぞれに任されています。どう飾りつけても、飾りつけなくてもOK。みなさん個性が爆発していました。
自分で自分をコントロールしていると感じると、人は通常よりも大きな成果を出す研究もあります。
2.進歩を感じること
トニーシェイは言います。
個人的にも仕事の上でも持続的な成長と学びがなければ、どの社員であろうとこれから10年後にそのまま会社に残っている可能性は限りなく低いでしょう。
だからこそ、持続的な成長と学びの機会を誰にでも提供するのだそうです。
■進歩は分割せよ
しかもトニーは進歩を細かく分けて、高頻度で感じてもらうとより良いとしていました。デカルト流、困難は分割せよ。困難じゃないけど、分割はしてよねって感じですかね。
例えば、Zapposのマーチャンダイジング部門では、年次評価から半年に1度の評価に変えたそうです。結果として変更前後で昇給スピードに違いはないのに、社員は以前より意欲が高まっているそうです。
■新スタート効果を散りばめよ
また、日々進歩を感じてもらうために、Zapposでは区切りをとっても大事にしています。いわゆる時間的・社会的ランドマークという考え方ですね。
これは、ペンシルバニア大学ウォートン校よりフェンチェン・ダイ、キャサリン・ミルクマン、ジェイソン・リースが発表したタイミングの科学に関する研究です。
皆さんも実感があると思いますが、元旦や月初など時間的な区切りがある日、または誕生日などその個人にとっての区切りとなるとき日に新しいスタートを切るための目標を立てることはないでしょうか?
彼らは研究で、この「新スタート効果」により、
私たちは「過去よりも優れた振るまいをし、願望を達成しようといっそう熱を込めて努力する」こと、
それだけではなく、「時間的ランドマークは、日々の些末事から注意を逸らし人生の全体像を捉えさせて、目標の達成に集中させる。」という結果を発表しました。
この研究からもいえますが人は日々仕事をする中で、ランドマークが大事なんです。Zapposはその機会をうまく作っています。
例えば、Zapposでは入社してから1年ごとにアニバーサリープレートが贈られます。こんな車のプレートみたいなやつ、一体どこに飾るんだろうって思っていたら、普通にみんな机に飾ってるんですけど。
嬉しいよね!次は水色が欲しいとか思いますよね!
全く何もないよりも、このような「1年在籍できた」というランドマークを醸成することで、「また1年頑張ろう」と思えるのだとか。
3.つながり
トニー曰く、
会社とのつながりを感じている社員ほど生産的であり、また社員が職場にもつ親しい友人数が社員と社とのつながり感とに相関関係をもつという研究結果があります。
- 「ザッポス伝説」より
また、社会心理学者のジョナサン・ハイトよると、「幸福とはそもそも内側から生じるよりも、むしろ『間』から生じるものだ」と結論づけているそうです。トニー、私も実感ある。
■良好な人間関係を作る
また、トニーが大きな影響を受けたポジティブ心理学の父と呼ばれるマーティン・セリグマン教授。彼の提唱する Well-beingのための5つの要素の中にも「良好な人間関係」が出てきます。
っていうか、このパートの4つの要素のほとんどがセリグマン先生から持ってきてるんだと思う。
▼5つの要素
・「ポジティブな感情(positive emotion)」
・「没入・没頭(engagement)」
・「ポジティブな人間関係(positive relationship)」
・「意味(meaning)」(人生や仕事に意味を感じること、何か自分よりも大きなことのために貢献しているという感覚)
・仕事や活動の「達成感(achievement)」
つらつらと書きましたが、とにかく仲良し!良好!っていう人間関係作りの土台ができています。例えば、ツアーに参加した時もすれ違う人たちがハイタッチしてたり(それはそれで陰キャにはつらw)、挨拶が心地よかったり、「えーなかよしだなー」って思う体験もいっぱいありました。
また有名なところでいうと、Zapposでは毎年1冊カルチャーブックを出しています。内容については百聞は一見に如かずなので、ぜひご覧下さい!※PCで見ることを推奨します
カルチャーブックについては、つながりの範囲が広いなと思いました。社員同士、パートナー、投資家、そして顧客との繋がりを考えた施策ですよね。
■トランザクティブメモリー作り
実はつながりは、Well-beingという観点だけではなく、組織学習という観点でも組織内におけるつながりは非常に大切です。
かの有名なダニエル・ウェグナー氏の提唱したトランザクティブメモリーについてはおそらくご存知だと思いますが、念のため定義を貼っておきます。
トランザクティブメモリーとは、1980年代半ばにアメリカの社会心理学者ダニエル・ウェグナー氏が提唱した、「組織学習」に関する概念です。
この概念は、組織全体が同じ知識を記憶するのではなく、組織内の「誰が」「何を」知っているのかという情報を把握する事を重視する考え方です。つまり、「What」ではなく「Who knows what」が共有されている状態を指します。日本語では「交換記憶」「対人交流的記憶」とも訳されます。
ートランザクティブメモリーより
これに関連して、Zapposでは誰が何を知っているかが連想しやすいような仕組みがあります。
ZapposではPCへのログイン時に、ランダムに表示される社員の写真をみて、名前を選択肢から選びます。その後社員の紹介と略歴が表示されるので、みんな互いをよりよく知ることができます。答えを間違えてもペナルティはありませんが、スコアは記録しているそうです。
・・・なんか怖いけどすごい!でもちょっと怖い!
4. ビジョンと意味
最後はビジョンと意味を持つことです。書籍の中では、自分自身より大きなものの一部になることと書かれていました。
■大きなものの一部になること
これも、先ほどご紹介したマーティン・セリグマン教授の見解のうちの一つに概念として存在しています。
セリグマンは、幸せをタイプにより三種類の人生に分類している。1)快楽の人生、2)充実の人生、3)意味のある人生、である。
この3つのうち、Zapposでは3)意味のある人生 を作っていくための場所だと定義しています。念のため意味のある人生の定義を貼っておきます。
3)自分より大きなものの一部となり、大きな目的に向かっていると、意味のある人生が送れる。ここで得る幸福感は最も長く継続することができるとされる。
つまり、目的を持つ大きなものの≒組織とすると、一人一人がそれを信じ、組織の一部となっている実感をもつためは、兎にも角にも文化を浸透させていかなければなりません。
大きなものが生命体だとすると、やっぱりそれを支える芯が必要です。それが文化です。生命体と聞くとつい人間を想像しちゃいますが、同じ電気信号を共有し、血管が通り、筋肉も相互に反応して、、、えーっと、続きははたらく細胞をご覧ください。
トニーは、
個人にとっては、個性が運命です。
組織にとっては、文化が運命です。
と、強く主張しています。この根本的な思想があるからこそ、Zapposでは文化浸透が行き渡っているのではないでしょうか。
■文化浸透チェック
この文化の浸透についてはどこの企業も躍起になって真似しているところだと思いますが、Zapposはこれをバリューで貫いています。
例えば、文化の浸透度を図るために定期的に以下のような質問をしています。
- 私は会社には単なる利益追求を超えた崇高な目標があると信じている
- ザッポスでの私の役割には真の目的がある-それは単なる仕事以上のものである。
- 私は、自分で自分のキャリアをコントロールしており、ザッポスで個人的にも仕事の上でも成長しているのを感じている。
- 私は同僚を家族や友人のように考えている。
- 私は仕事にとても満足している。
これらの質問の結果は、すぐに可視化され社員にもフィードバックされるそうです。
■文化浸透のための入り口整備
また、Zapposといえば採用から定着までのバリュー浸透に定評があります。この辺は超有名エピソードなので簡単に流します。
・採用はスキルよりもバリュー重視。特に「謙虚であれ」を大切にしている。
・バリューを浸透させる4週間のオンボーディング研修があり、そこで1ヶ月分の給与をわたす代わりに退職できるオファーをだす。
詳しくは、Zapposが世界のビジネススクールのケーススタディに引っ張りダコとなるきっかけを作った、この記事をご覧ください。
■純度のための覚悟
ちなみに少しそれますが、このような文化の純度を保つためにも、彼らは方針を変えるときに必ず退職オファーを出します。
ホラクラシーへの移行でも、全社員に退職のオファーを出しました。
ザッポスの1471名中210名が退職オファーを選んだ。マネジャー277名中7%の20名、非マネジャー1195名中18%の190名、トータルで14%に上る(Quartz)。マネジャーのオファー取得率が非マネジャーより低いのは興味深い。
一般社員の方が、ホラクラシーなる難解なものへの恐れ・不安があったのではなかろうか。言い換えれば、ブリロニ氏が指摘するマネジャーへのチャレンジは、ザッポスでは現時点では前向きにとらえられている。
なお、日本的な感覚では210人は多いと思うかもしれないが、ザッポスでの自己意志による離職は年十数%と言われ、210人はその範囲内でもあり、さほど驚く数字でもない。また、社を去る210人に対して、手厚いフォローがされていることも記しておきたい。
様々な事例をご紹介しましたが、なんといってもここまで徹底的にこだわった施策は眼を見張るものがありますよね。
補足
ここにあげた施策はごく一部です。
他にも、
・Zapposは事細かにデータを収集し、常にオフィスでも可視化し、データドリブンな意思決定を行う企業であること
・買収前からAmazonに引けを取らないくらい在庫管理などに最新のハードテクノロジーを導入している
・ファシリティへのこだわりが強く、オフィスは自動販売機の中身にだって考え抜かれて設計していること
などなど、真似したいことは様々です。
参考にした書籍は最後に記載しておくので、少しでも興味があれば是非読んでみてください。
むすび
さて、以上が私の持っている全てになります。ええこれが私のクリスマスの全てですよ。
ふと記憶を3ヶ月前の2018年9月に戻します。
オフィスツアー参加直後は、オブリビエイトかけられたんじゃないかってくらい、もう頭が呆然としていました。
周りの方々には「 疲れているので部屋にいます」と誤魔化しながら、ラスベガスのネオンを横目に、ホテルの部屋で一人きり、最後の夜なのにご飯も食べず、自分の気持ちをまとめていました。
その時の気持ちをシェアします。
ついエモさが増してしまいましたが…
Zapposの濃度の高い文化やユニークな取り組みに目がいってしまいますが、
個人的には冷静な市場機会の見極めや、様々な危機を乗り越えた上で作られている盤石な文化を見て欲しい。
そんな想いでいっぱいです。
また細かい施策については、書籍や他の記事にもたくさんあるので是非ご覧になってみてください。
そしてそして、Zapposは1日に4回もオフィスツアーを行なっており、誰でも参加できるので、ベガスに行ったら是非立ち寄ってくださいませ!
平成最後にZapposに出会えて本当によかった。VIVA平成。
今回も長い文章を読んでいただき、本当にありがとうございました。
I’LL BE BACK!!!!! LOVE YOU — — — ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
参考にしたもの
今回も、独自に調べたわけではなく基本的には世にある素晴らしい知識をお借りしています。特に、本庄さん石塚さんなどご見識のある方々の翻訳を頼りに情報収集していました。
■本とか
・トニー・シェイ(2010)『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか』(ダイヤモンド社)
・石塚 しのぶ(2009)『ザッポスの奇跡 The Zappos Miracles―アマゾンが屈したザッポスの新流通戦略とは』(東京図書出版会)
・入山 章栄(2015)『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)
・ダニエル・ピンク(2018)『When 完璧なタイミングを科学する』( 講談社)
・M. チクセントミハイ(1996)『フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR) 』
■記事とか
・ザッポス最強伝説~アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか(全6回)
・ザッポス最強伝説 Part2~アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか(全16回)
・ホラクラシ―:ザッポス、トニー・シェイの新たなる挑戦
■人とか
まず、この世に「いとちゃん」というエンジェルを産んでくれたことに感謝です。
写真やプロフィールは割愛しますが、いとちゃんは企画から校正や、1つ1つの表現も丁寧に直してくれました。ていうか、公私ともに支えてくれている最高の天使です。
ちなみに、組織学習・心理的安全性や柔軟性については2018年最も変態だと思った友人りょうちゃんの記事が最高なのでこっちを読んでください。
ついでに彼の研究(例えばサーベイとか)に協力してくれる企業の方いたら教えてください!
あ、そういえば、来年1/22にこのツアーに誘ってくれたBtoAの石原さん、ついてきたPeerly森さん、わたしの3人で渋谷のどこかでHR Technology Conference報告会イベントやります。(ポーズがw)
詳しくはまたTwitterやら何やらで告知します。
みなさん、是非来てくださいね!